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福島家庭裁判所いわき支部 昭和46年(少ハ)1号 決定

少年 T・Y(昭二六・三・二八生)

主文

本件収容継続申請を棄却する。

理由

一  少年は、昭和四四年九月二五日当裁判所において、傷害、恐喝、窃盗保護事件(同年少第三六一号、第五二一号)について、中等少年院送致の決定を受け、同月二九日東北少年院に収容され、同少年院において現在まで矯正教育を受けてきているものである。

二  本件申請の趣旨および理由の趣旨は、

少年は、入院時の鑑別において、「自己中心的傾向が強く、主観的に自分の都合のよいように考え易い。気分の変化が大きく、行動が変り易すく、落着きがなく、情緒の安定に欠ける。自己顕示性が非常に強く、人中で目立つような行動をとり易い。不良成人達と好んでつき合い、わがもの顔で行動している。」等の問題点が指摘されていた。東北少年院においては、これらの点に留意し、少年に対し改善処遇をなし、少年が二級の上に進級したのち、昭和四五年四月からは毎週一回の個別カウンセリングを実施してきたが、上記のような性格上の問題から、同月二日人身事故で謹慎五日、同年六月四日同じく謹慎七日、同年七月二九日いやがらせ事故で謹慎七日、同年九月二日他の院生に洗濯をさせ院長訓戒、同月九日暴行で謹慎二〇日(これがため同年五月一六日進級した一級の下から二級の上へ降下)、同四六年一月一三日暴行で謹慎二〇日の各事故を起し、同四五年一一月一日一級の下へ再度進級したものの、改善は未だ不十分で処遇の最高段階である一級の上に達するのは同四六年四月一日の見込であるが、少年は最近になつて、自らの責任を理解し、自己改善の必要を感じ始めており、このような動きを今後さらに援助することによつて、より適応した人格に成長させるべく、少年が二〇歳に達する同年三月二八日から一ヶ月以上収容を継続をする旨の決定を申請する。

というにある。

三  よつて、一件資料、ことに、少年調査記録中の家庭裁判所調査官伊藤美憲各作成の東北少年院分類保護課長法務教官安藤茂、少年の父親および少年についての調査報告書ならびに意見書、仙台少年鑑別所(鑑別担当者法務技官小山内光一郎)作成の鑑別結果通知書、同鑑別所法務技官小山内光一郎、上記安藤茂、少年の父親および少年の審判廷における各供述等により、以下に検討する。

(1)  前記申請の理由の要旨に記載の少年の性格特性、行動傾向、東北少年院における少年に対する処遇の経過については、これをほぼ認めることができる。

少年に対する処遇の経過をみると、些細なことから下級生に対しかなりの暴行を加えるなど、少年の性格特性に起因するとみられる事故が多く、他の在院者に比べて成績良好といえず、一度は降級されたほか、一級の下の段階に限つても、本年一月の事故のため、通常より二ヶ月遅れて本年四月一日に処遇の最高段階である一級の上に進級の見込みであつて、基本的な性格構造に大きな変容は認められず、犯罪的傾向が必ずしも十分に修正されたとまではいいきれない状況にある。

しかしながら少年は、事故の回数こそ少ないが、謹慎や院長訓戒の処分を受けるごとに、少しずつ自覚反省が高まつてきたことがうかがわれ、ことに上記本年一月の事故後は、上記鑑別担当者らも指摘のとおり、自らの性格、欠点を意識し、行動についての真の反省、内省がみられるようになり、自己洞察の程度も高まり、急速に改善方向に向つていることが認められる。そして少年は、将来についても、以前のような自己中心的な考え方と異なり、両親をはじめ家庭のことを考え、父母の経営する生花店の手伝いをし、交友関係、生活態度等についても、自己の意思と責任において行動する旨の決意を述べている。このように、少年には中等少年院送致決定当時と比較し、明らかに質的ともいうべき変化が認められる。

帰住すべき環境については、家庭ではもとより両親がより一そう指導監督を強めてゆく覚悟であり、受け容れ態度はできているものというべく、不良徒輩らとの交遊関係に関しては、少年の自覚にまつところも大きいが、さしあたつての大きな不安は見当らないようである。

(2)  このような状況にあつて、同少年院においては、少年が改善方向にあり、成績も向上していることを認めつつも、短期間ながら、今少しの指導援助を試み、少年について納得のゆく矯正教育を施したい意向であること、また、少年が現在一級の下にあつて同少年院の処遇体系との関連で、他の在院者に対する影響も考慮せざるを得ない事情もあることなど、それなりに理解できなくはない。

しかし、前記のような諸事情を総合すると、本少年については、すでに在院一年六ヶ月になろうとしており、今後通常の処遇、進級の過程を経るにしても、あとわずか数日で一級の上となる見込みで既に実質的には一級の上にある者とほとんど差がないばかりか、ある面ではむしろそれを上まわる状況にあることがうかがわれ、形式的とまでは言い切れないにしても、一級の上に進級させてから出院させるため、収容を継続するよりは、むしろ、あえて、二〇歳に達するのを契機として退院させることによつて、少年の改善更生意欲を助長し、より一そう強く深い自省と社会的責任の自覚を期待することができるものと考えられる。

(3)  以上によるならば、少年については、収容継続の必要がないものというべく、本件申請は理由がないことになるので、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 龍岡資晃)

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